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一流アスリートの対談

イチロー × 松井秀喜 対談 3

イチロー×松井 対談③

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松井/一人になると、結構不安になる時ってやっぱりあるじゃないですか。でも、チームがとにかく勝っていくためには、自分が打てなくても何していったらいいかなということを考えていくと、意外と楽になれる部分ってあるような気がするんですよね。

イチロー/僕はね、苦しいときは諦めない気持ち。苦しい時って力が半分しか出せない、100%出せないと感じることがあるよね。けど、50%の100%を出そうとする自分があれば、立ち直りは早いと信じてるね。だけど50%しか出ないからと言って、50%しか出さないような姿勢だと、それがず~っと長くなると思ってるのね。

苦しいのは、チャンスが来るためのできる人にしか来ない、壁というのは。超えられる可能性のある人にしかやってこないと思ってるから、逆にチャンスだと最近は思ってる。苦しいよ、でも。すっごい苦しいけど、そういう気持ちを持ってやってれば、抜け出した時もほんとに気持ちが全然違うし、そういう時こそ大事にしたい。

 

ナレーション/イチロー選手が、悪夢にうなされていました。

イチロー/弓子が僕を見て、びっくりしたっていうんですよ。寝ながら泣いてたっていうわけ。びっくりしたって。

ナレーション/9月、3年連続の200安打という大きな目標を目の前に、イチロー選手はプレッシャーという鎖によって、がんじがらめになっていた。

イチロー/プレッシャーだとか、自分への怒りによって、例えば吐き気がしたり、呼吸が苦しくなったりということは今までになかったことですから、そのことはほんとに驚きました。

ナレーション/それは、あまりにも衝撃的な告白でした。3年続けてトップクラスの数字を残しながら、去年のイチロー選手には、終盤のスランプに苦しんだイメージが、強く残っています。

しかし、去年のイチロー選手にとって深刻だったのは、むしろ開幕直後のスランプでした。信じて培ってきたバッティング技術に、予想もしない落とし穴が潜んでいたのです。それは、進化と紙一重の微妙な狂いでした。

開幕2試合目、イチロー選手はそれまでの自分には打てなかったという、難しいカーブをヒットにします。膝の力を抜くコツを覚えたおかげで、上半身が柔らかく使えるようになっていたのです。しかし、このヒットに、落とし穴が潜んでいました。

 

イチロー/今まで見えないところが、見え始めた。「打てる」と思う感覚の場所がもっと増えちゃったわけですよ。見て判断した時には「これは厳しい

と判断する。けど体は「打てるぞ」と信号を送る。それによって、その球を打ちにいく。でも結果的には、それはものすごく難しい球。画面で見るととんでもない球を振っている。でも体は「いけるかもしれない

という判断を下しているんですね。

 

ナレーション/ヒットにできると感じるポイントが、劇的に増えた。そのことによって、打つつもりのないボールに対しても、手が出てしまう。こんなハイレベルな悩み、聞いたこともありません。

しかし5月に入ってすぐ、イチロー選手は、あるきっかけをつかみます。それは、このファールフライを打った瞬間のことでした。凡打でヒントをつかむ、イチロー選手ならではの不思議な感覚です。実際この  の直後イチロー選手は、4月のスランプがうそのように、打ちまくっているんです。凡打をヒントに、スランプ脱出のきっかけをつかむなんて。この点については、松井選手も同じ疑問を感じていました。

 

松井/凡打で感覚をつかめるという、それがイチローさん独特の感覚なんかじゃないのかなと思って、普通の選手、ないと思うんですよね。僕にもないんですよね、そういう感覚は。

イチロー/どうしてそうなるのかという原因が見えるの。

松井/失敗した原因が見える。

イチロー/そう。

松井/その凡打の中に見えるんですね、なるほど。

イチロー/どうしていい当たりが出たかとは、考えない。どうしてこれが凡打になったのかという答えがはっきり見えれば、それを直せばいい訳だから、答えははっきりする。そうやってつかんだものは、長いね。

松井/こういうふうにさえしなければ、逆に大丈夫みたいな、そういう考え方ですよね。なるほどね。

イチローオリックス94年やった。その時に先輩に言われた言葉が、「1年やっただけで、いい気になるな。」すごくうっとうしかったけど、今思うとね、その言葉は本当にありがたかった。

最近よく言うんだけど、3年やらないと自分は物は言えない。見てる人も納得をしないという期間だと、そこで思ったのね、教えられた。見てる人を黙らせたいなら、結果を出せというのは、根底にある。基本だよね、勝負の世界では。一番はともかく200本打ちたい。それは最高の目標だから、3年続けることを何としてもやりたかったからね、その時の気持ちの乱れというのは、びっくりしたね。もう吐き気、息苦しい。9年間か、日本とアメリカで。いろんなことを経験したつもりだけど、初めて。だからもう、こういうことがあるから、野球が辞められないということもあるんだね。

松井/そうですね。

イチロー/野球の3つの要素あるよね。打つ・守る・走る、どれが一番難しいと感じる?

松井/僕ですか?う~ん、技術的には打つことじゃないですかね。僕は、一番打つことが難しいと思いますけど。

イチロー/僕は走塁なんだ。走るだけ、走るという技術は、誰でも走れる。走塁の難しいとこっていうのは、やはり成功率10割にしとかなきゃいけない。それでいて瞬間的な判断、難しいよね。難ししいでしょ。

松井/それが、一番ですよね。

イチロー/野手の肩も考えなきゃいけない、芝生の状態も考えなきゃいけない、そういうこと全部を踏まえて判断をしなくてはいけないことは、野球を10年以上、プロの一軍レベルでやっても、変わらない難しさなんだよね。

マリナーズというチームは、すごい速い奴もいるけど、すごく遅い奴もいっぱいいる。言ってみれば、「のぞみ」もいるけど、「こだま」もいるみたいな感じで、どっちか言うと(僕は)「のぞみ」でしょ。だから、浜松とかで止まると、怒られるわけ、お客さんからね。

松井/なるほどね。

イチロー/わかる?

松井/わかります。

イチロー/だけど「こだま」の人たちは当たり前。止まって当たり前。でもヤンキースは「ひかり」が多いでしょ。

松井/うん、基本的にほとんど「ひかり」ですかね。(笑)

イチロー/でしょ、「ひかり」が多い。でも「こだま」は、ほとんどいない。

松井/「こだま」はいない。

イチロー/「こだま」は浜松で止まられても怒られないじゃない、時々止まるから。そこのプレッシャーが「のぞみ」にはあるんだよね。

松井/なるほどね。

イチロー/止まれない苦しさ、それがね、難しさを呼んでいる。

松井/とりあえず名古屋まで行かなけりゃならないわけですね。

イチロー/そうです。守備が意外とうまいって言われてるよね。うまいの?

松井/イチローさんと比べないでくださいよ、ちょっと。

イチロー/どうなんかな~って。

松井/そんなさあ、ずうっとゴールデンクラブ取ってる人に言われたらあれだけど。

イチロー/でも、球?は強いよね。

松井/うん。自分で…

イチロー/うんって。

松井/自分で、あ、捕れると思ったら、大体捕れるんですよ、きわどい打球でも。感覚的にあるじゃないですか、走りながら「これ捕れるわ

と思ったら、「追いつくわ」と思ったら大体捕れるんですよ。

イチロー/スライディングキャッチとか、うまいもんね。うまいというか、イメージよりね。

松井/ありがとうございます。(笑)

イチロー/実は、あれがイメージじゃないのよ、もっとやってほしいことがある。

松井/何すか?

イチローゴジラでしょ、ゴジラでしょ。ちょっときれいだね、あれは。ゴジラがやるにしてはね。

松井/どういうのがいいですか?

イチロー/だから、打つ方はやっぱガンガン打つ、ガンガン打つ。率は別にいい。ガンガン40本打っちゃう。けど守備は暴投とか投げるじゃない。ボストンの時やってたよね。あれはありなんだよね。

松井/イチローさんの中では。

イチロー/全然あり。左中間飛びました。追っかけました。帽子捕れました。さ~と髪がなびきます、は、なしなのよ。

松井/あれは、なし。

イチロー/なしなのよ。帽子かぶってます。捕れてません。フェンスまで行きました。フェンスを突き破る、それが理想なんだよ。

松井/なるほどね。

イチロー/スライディングしました。さっと起き上がるんではなくて、芝生をえぐってもらったり。

松井/(笑)なるほどね、バカッと。

イチロー/そんな感じなのね、実は。

松井/イメージ的には。

イチローゴジラだから、強いから。

 

ナレーション/あまりにも対照的なふたりのイメージ。象徴的なのがマスコミへの対応です。

松井/そんなにストレス、溜まんない、ほんと、ほんと。

イチロー/無神経?