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男の対談 イチロー × 矢沢永吉【英雄の哲学 】

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イチローさん=イ:   矢沢永吉さん=矢:

 

 

 

イ:初めまして、イチローです。

矢:よろしく。

イ:いやもう、光栄です。

矢:こちらこそ。会いたかったです。

イ:ありがとうございます。

矢:どうぞ。ちょっと狭いところですけど。

 

矢:この間イチローさん、ドラマ見ましたよ。

イ:(照れる)ありがとうございます(笑)

矢:たまたまだったんですけど、僕は正月は毎年仕事しない主義で、飲んでいまして、それでカチッと。パッと出たから、「わあ」と思って、ああ、これなんだと思って、研究も兼ねて見ましたよ(笑)

イ:いかがでしたか(笑)

矢:娘にはっきり言われましたね、「お父さん、イチローさんにちゃんと伝えてて。お父さんより100倍演技上手いから」だって。本当、よかったですよ。

イ:ありがとうございます。

矢:初めてですか、あれは。

イ:初めて。僕は学芸会だって出たことない人間ですから、もう後からいろんな反応を聞かせてもらって、大変なことを僕はやろうとしていたんだなと思いましたね。

矢:歌手がたまにドラマ出たりということは、まあまあないことはないですよね。だから僕も2回ぐらい、どういう世界なのかなということで、一回経験してみたかったから。だけど、野球の現役の選手がドラマに出るというのは、ちょっとあまりないじゃないですか。

イ:「ちょっと」じゃないですね、「全くない」ですね(笑)シーズン中にライトを守っているじゃないですか。で、ろくでもない試合のときもあるんですよ。そういうときに台詞、「古畑(任三郎)さん…」なんてやりながら、やったりしていたんですよね。そうしたらちょっと、3割が危うくなったんですけど(笑)

矢:だから、そのときに、ああ、今度イチローさんにお会いしたときに、何でドラマやろうと思ったんですかということを聞いてみたかったんですね。

イ:やっぱり刺激が欲しかったんですね。

矢:分かりますよ。

イ:それにちょっと飢えてしまっている。何か違う世界から刺激をもらいたい。一流のものに触れれば何か感じるだろうということは想像できましたし、こうやって矢沢さんにお目にかかって、また僕は何かを感じると思うし。それが動機ですかね。

矢:なるほどね、違う扉を開けて、また何か感じる。だからいいことですよね。

イ:100パーでいつもやろうと思うと、結局長い間続かないので、70%、80%の力で人を喜ばせる魅力をそのタレントが持っていないと、僕は続けることは難しいだろうなというふうに感じましたね。僕はもう100%で思い切りいきましたから、もういっぱいいっぱいだったんですからね。

矢:僕は呼吸が違うということを最初思いましたね。やっぱり歌手とかロックシンガーというのは、外に外に出していく呼吸に比べたら、やっぱり役者さんというのは内に内に呼吸をずっと秘めていっている、あの感じ。それをわかっただけでも、ああ、やってよかったなと思いましたけどね。

イ:自分が想像もしなかった自分が現れたみたいな感じがしますね。こんな自分がいたのかという新しい発見があってよかったですね。楽しかったですね。

矢:またやりますか。

イ:いや、調子に乗ると叩かれるのがこの世界ですから(笑)

矢:それとやっぱり、本職がビシっとできていて言えることですからね。

イ:もちろんそうですね。今回だって僕は、25分でヒットが150本だったら、とても出られなかったですからね。去年のシーズンって、そういうプレッシャーがあったんですよね。「ドラマ決まっているし、200本打てなかったらシャレにならないな」と思いながら。

矢:言われるからね。

イ:そうなんですよ。

矢:「お前、出てる場合じゃねえぞ」と言ってくるの、周りはすぐ。

イ:もう4年間僕が3割、200本、100得点、30盗塁、ゴールドグラブというのを続けてきて「しまった」ので、ちょっと苦しかったですね、去年。これが1個でもやっぱり……。

矢:すごいよね。それ決めて出て、あそこまでの楽しみ方ができて、一つ別の扉をちゃんと開けられたというのは、最高じゃないですか。

イ:「サイコー!」です。

 矢沢さんとこうやってお目にかかるのに当たって、あるコマーシャルの撮影をしていたときに、一つの雑誌があったんですね、偶然。こういう感じで、表紙なんですね。これをできるのはすごいことだって。信じられない。僕もちょうど写真を撮っていたので、ちょっと真似させていただいて(笑)矢沢さんの気持ちになってみようかなと思って、ここに……(写真)しのばせてきたんですけど。

矢:(写真を見て)やったんだ(笑)サイコー!イチローさん、サイコーだね。結構お茶目なんですね。

イ:本当に偶然スチールの撮影をしていて、俺もやってみるよっていって、やってみたんですけど。いや、すごいパワーなんだなというふうに。56歳ということをお聞きしたんですけども、僕実は50歳まで現役バリバリでプレーするというのが、今夢なんですね。これは目標ではなくて大きな夢で、このパワーってどこから来るんだろう。モチベーションとか、すごく興味深かったんですよね。こうやって初対面、今ぱっと見たときに、エネルギーがすごいじゃないですか。

矢:そうですか?

イ:それはやっぱり、初めにぽんと会ったときって、その人のオーラだとかエネルギーって一番感じる瞬間なんですよね。

矢:なるほどね。

イ:僕、今日は矢沢さんにコテンパンにやられたいなというふうに思って、実はここに来たんですけど(笑)

矢:今、イチローさんが「夢なんだけど、自分は50までは現役でやりたいんだよね」と言われたでしょう。僕も30ぐらいのときに、「俺、50まで歌うぞ」。ひょっとしたら、全く表現の仕方こそ違うけど、同じ気持ちなんですよ。やっぱりロックシンガー現役というのは、まあ40ぐらいでいいところだろうと。どんなに人気があっても。50ぐらいになって、まさか武道館でマイク蹴飛ばしてはいけねぇだろうというのがあったんですよ。そういうものがあればあるほど、いや、俺はやるよと。やってみせようじゃないと。あれひょっとしたら、自分のケツ叩きまわったんだと思うんですけどもね。それでまた、そうやって語ること、言うことによって、何といいますか、風呂敷広げてから、もうやらざるを得ないところまで持っていっちゃうみたいな。過ぎた今現在は、ああ、こうやってやるべきものがあるから、俺は幸せなんだなとか、だからまだ生きていけるんだな、みたいなことが、本当にこのぐらいの年になったらすごく思いますね。

イ:どっちかの道があったとしたら、楽な方と、厳しい方とあったとしたら、常に厳しい方を選んで自分を追い込んでいく。その姿勢が結局50歳を超えてまでも残っていることが僕は信じられないですし、大体50歳、40超えて魅力のない人って、もう自分が行くところまでいっちゃって、ちょっと上から物を、若い日とに対して。そんな姿勢で来られるんですよね。自分は世の中のことをたくさん知っていて、いろいろな経験をしている。だから私が教えてあげるよというようなスタンスで来られると、何かこの人、限界なんだろうなというふうに思うんです。

矢:なるほどね。

イ:でも、輝いている人って、常に自分がまた上を目指しているし、常に対等。幾ら年が違っても、目線を同じところまで持ってきてくれる大きさがあるんですよね。それがまさにまさに矢沢さん。今、これだけでも。

矢:イチローさんと僕なんて、20ぐらい違うでしょう。

イ:24、ですね。

矢:24違いますよ。2回り違うんですよ。2回り違うと、やっぱり世代も違うし。違うけど、何か一本共通のものとは何かといったら、僕まだ現役なんですよ、おかげさまで。現役やっていると、さて、今年どうしてやろうかなと。去年はああしたし、今年はどうしなきゃいけないんだろうということに対しては、ちっとも変わっていないんですよね、10年前と20年前とで。そんな上だ、下だ、右だ、左だってことなんかてありゃしないんだよね。だから教えてやろうかと言った段階に、熱くないんです、もう。絶対。実はひょっとしたら、現場にいないのかもわからないね。もうメモリーになっちゃっているのかもしれないよね。そういう意味では、現場にいたいな、現場っていいなと。僕、だからリタイアしたくないと言ったんですよ。昔は、30ぐらいのときは、まだ見えない20年先のことだから、くそ、誰もやったことないのか。50でもし武道館に立って、今と変わらない。マイク蹴飛ばしてやれたら……。よし、「俺、50までやるからヨロシク」と言ったときに、20年先じゃないですか。そうしたら本当に確信があって言っているかといったら、確信なんてありゃしないよ。確信なんてありゃしないが、言いだしっぺだからもう、風呂敷畳まなきゃいけないところまで持っていっちゃう。ということで、ちょっと酔っている自分がいるわけ。「あ、俺言っちゃったな。やべえな」と思いながら。でも、たったかたったか354045って、おいおい、本当にこれ50来ちゃったよと思ったときに、万単位の客のところで、『アイ・ラヴ・ユー、OK』を歌いたいと言ったときに、実は横浜国際競技場で本当にそれを実現したんですよね。50歳のバースデーライブで。セカンドパートの「アイ・ラヴ・ユー、OK 長くつらい道も お前だけを支えに歩いてきた」という詞があるのね。「長く辛い道も、お前だけを」って歌えなくなっちゃったのね。なぜだか歌えなくなっちゃったんですよ。そうしたら客ももう何か感じたんでしょうね。5万人が「うわあ」ってなっちゃったんですね。だから、もしイチローさんが50やって、それで200安打の1発のヒがあって、本当に打っちゃったら、僕泣いちゃうんじゃないかな。誰にといったら、分からない。自分になのか、この時間になのか、何かわからないけど。それでいいと思いますし。

イ:僕、今まで野球やっていて、泣いたことがないので。まあ2軍に落とされてないたことはありますけど(笑)そういう瞬間に巡り合いたいですよね。酔って泣けたことが、今までまだないので。14年間プロ野球でやってきましたけど。でも、それをするには多分、子どもみたいな気持ちで野球を続けられないと達成できないんだろうなって。子どもがどうしてあんなに楽しそうに野球をしているように見えるというと、そんなに上手じゃなくても。楽しいと思っているからなんですよね。好きだから。でも、プロ野球の選手になると、いつの日か、何か楽しそうじゃないな、あいつというのが。そういう人の方が多くなってきてしまう。でも矢沢さんて、子どもなんでしょうね、失礼なんですけど(笑)すごく子どものような気持ちを持って、未だに歌を歌っているという。僕はそんな感じがするんですよね。だから、こんなに輝けるんだと思うんですよ。

矢:昔、はっきり言っていましたよ、「金持ちになりたい」って。金持ちになりたい。僕初めてのインタビューで、「矢沢くん、何で歌手になろうと思ったんですか」と言うから、「お金儲かると聞いたから」と言っちゃったもん、つい。言ったときに、ちょっと怪訝な顔をしていたから。あ、まずいなと。あ、そうだ、「音楽も好きです」って言っちゃったの、俺。

イ:(笑)

矢:バカというか、バカ素直というかね。だけど、満更その気なかったわけじゃないですよ。僕、これも一つのきっかけとしてはいいと思うんです。ビートルズが好きだ、ジョン・レノンみたいになりたい。だけど、当たったらジョン・レノンとかビートルズは俺たちに何を教えたんだろう。こんな一攫千金は狙えるかもわからないということを、ビートルズは教えたんですよ。だから僕、ビートルズの本を読んで一番感じるところって、どうやって契約内容を交わして、そこからブライアン・エプスタインとどういう取り分を決めて……って、すげえなと、そこでギラギラ輝いた自分がいたのね。だけど、現実ってそんなものじゃない。やっぱりいかにいいステージやるか、いいレコードを作るか。町から町、説得し続けていけるかということは、これが現実じゃないですか。それで行って、行って、行っているうちに、俺はもうどうやってもっと上に行かなきゃいけないか。どうやって持っていくのか。それはもう当たり前の話ですよね。やっぱり音楽好きなんですよ。いいステージしたいんです。それでステージに立って、客がもうアンコールでこうなったときに、「今日サイコー」と思っている自分がいるわけですよ。50まで歌えますと言って、50過ぎました。今、僕歌やめない。何でやめないかといったら、僕わかるんです。ミック・ジャガーとかローリング・ストーンズがお金のために歌っていませんよ、もう。とっくに彼らそれをクリアしていますよ。だけど、なぜやめない。もうやめないんですよ。そこには絶対やめられない、音楽とずっと遊んでいたい自分がいるんですよ。今を楽しんでいるんだ。やることがあるから嬉しいんだという人は、理屈なんかないんだよ。ただやっているんだよ。ひたすらやっているんですよね。こういう、やれるものを持っているという、これに対する感謝。今、世の中で何をみんな探しているかといったら、負えるものを持っているかどうかの戦いでしょう。そう思ったときに、ああ、俺はツイているなと。最初はビートルズに憧れて、何に憧れて、音楽したくて、女にキャーキャー言われたくて、ええかっこしたくてスタートしたんだけど、本当は絶対僕は音楽は好きだったんですよ。本当にその上っ面のことだけだったら、とっくに神様は終わらせていますよ、もうやめなって言っていると僕は思うのね。

 僕、イチローさんに今日初めてお会いするんだけど、ちょっとこれは失礼な言い方に聞こえるかもわからないですけど、矢沢の若いときに似ていますよ。

イ:そうですか(笑)

矢:似てます、似てます。ちょっと違う点は、僕は柄悪かったですから。イチローさんはやっぱりちゃんとお話しする。僕は若いときには、自分だけが言って「ciao(チャオ イタリア語のあいさつ)」という感じありましたから、もう誤解されまくっていましたけどね。50歳まで、多分イチローさん本当にやると思いますよ。誰のためにって、誰のためでもないですよ。自分ですよ。自分がそうしていたいんですよ。多分イチローさんも、いっぱいいろんな人に言われると思う。こういう時はどうだったんですか。イチローさんの気持ちを聞きたいですとか言われる。そんな面倒くさいことなんか、ないんですよね。

イ:(笑)説明できないこと、たくさんあるんですよね。

矢:「野球好きだから」っていうの、ありませんか。

イ:ありますね。

矢:すごく野球が好きだし、やっぱりあの頃と変わっていないところがいっぱいあるんだよね、俺。高校のときとというの、ないですか。

イ:ありますね。

矢:僕だってそうですもん。ビートルズ聞いて、「わあ、俺東京に行く」と言ったの、今でもありますもん、どこかに。それ一緒ですよ。

 

イ:最初に行った1年、2年と今というのは、ちょっと印象が変わっていて、最初はやっぱりすごいなと思いましたね。同じ人間とは思えないというふうに思いましたけど、でも日本にいるときの方がもっとすごいと思っていたんですよ、僕。あいつら怪獣だと思っていましたからね、大リーガーって。絶対怪獣だと思っていて、とても僕なんか行っても、太刀打ちなんかできないと思っていたものが、行ってみると、彼らはやっぱり人間だったって感じたんです。やっぱりすごいですね、持っているポテンシャルというのは。ただ、ここ(頭?)がちょっと。そこが日本人ってすごいんだなって。

矢:ちょっと挟んで悪いんだけど、イチローさんって面白いって思った。多分矢沢も30ぐらいのときは、はっきり言っていたんだろうね。ここがちょっとねって。言ってたもん、俺も。ここがちょっとよろしくないよねって言うけど、今言わないもんね。今のそのシーンだけで、端々に、イチローさん、結構言うよねというのがぽん、ぽんってあるわけ。僕も同じ。海の向こうは本場中の本場。で、行くでしょう。すげえ。出る音、何でこんなにすごいんだと。一緒に酒飲んだり、一緒にレコード作ったり、ライブの話になると、いろいろ見えてくるんですよ。ネゴシ(negotiation交渉)のこととか何とかというのは、欧米というのはもうすごく進んでいますからね。日本人みたいに、言いたいことを言わないで、後でぐちゃぐちゃ揉めるというの、向こうは逆だから。最初にぴしっと言うからね。ネゴシの話は。そして決まったらもうあとは仕事の話ということをはっきりしていますよね。だけど、こっちも負けていないよというのがあるんですよ。それで、それがもっともっと進むと、ちょっと待ってよ、これクライアントは誰なんだい。クライアントは俺だと。ああ、金を払っているクライアントが一番イニシアチブを持つべきだとわかったりもするんです。

 あるとき、イエス・ノーをすごくはっきりしなきゃいけないじゃないですか、向こうは。それで、「ノー」をはっきり言うと、尊敬してくるんですよ。尊敬なのかな。ああ、普通にちゃんと話さなきゃ通らないなということを認識するんですよ。イチローさんは、「いや、すごいんだけど、ちょっとココがね」って(笑)

イ:だから僕らがそこでカバーできるのかなというふうに思いますね。彼らがそれを使い出したら、ちょっと適わないなって。それは今でも思いますね。

矢:日本人のやっぱり勤勉さじゃないですかね。それは外に行くとわかりますよね。

イ:こうやってオフにちょっと帰ってくるだけでも、迎えてくれましたね、航空会社の方が。こうやって、「ありがとうございました」って。あの行為ってすごいなって思いますね。れだけでいろんなことを感じさせてくれるし、いろんなことが伝えられる。僕、日本の文化とかというのが、日本にいたときは全然そんなこと思ったこともなかったですけど、あっちに5年いて、日本が僕は大好きになりましたね。

 

イ:まず僕はシアトルというちょっと田舎にいるので、なかなか外に出て気分転換をする場所ってないんですよね。だから家の中をどれだけ充実させるかというふうに考えると、多少やっぱり投資をしてしまうわけですよ、無理をしてでもね。結局その場所が快適にならないと、気持ちよくグラウンドに僕は立てないわけですから、体のケアと同じように、家のケアというのはやっている。それが結局、50まで野球をやるために、僕は大事なことだというふうに思っているので、それに必要なものだったら、ある程度無理をしてでも手に入れるというのが僕の考えですね。

矢:今、向こうに何カ月ぐらい住んでいるんですか。

イ:2月の終わりから11月終わりぐらいまでですね。

矢:ほとんど向こう。

イ:そうですね。10カ月ですね。

矢:だったら家、要りますよね。

イ:それはアリゾナのキャンプ地だったり、シアトルだったりとかするんですけど。

矢:僕は家にいないなあ。

イ:笑

矢:だから結局は、ホテルの方が落ち着くんだと言っていますけどね。それだけ町から町、レコーディングスタジオ。だけど、どうかな。どちらにせよ、仕事やっているんですよ。イチローさんも矢沢も仕事やっているんですよ。

イ:マイクをばあんと蹴飛ばして、もうめちゃめちゃ熱いじゃないですか。あれが終わって幕が閉じたときに、「ああ、しんどいな」とかってないんですか。

矢:もうバリバリ。めちゃくちゃ。

イ:そうなんだ(笑)

矢:だってシャワー行くでしょう。ぽっと行って、背中ちょっと痛いよなと思ってさわると、血が出ているのね。マイクターンで背中まともに売っているのね。ばあんと。毎晩じゃないですけど。痛いなあと思うと血が出ている。打ち身だよね(笑)で、シャワー浴びて、もうぐったり。若いときはそれはもう、30ぐらいのときは、ばあっと歌って、「さあて、今日も飲みにいくぞ」って感じだったんですけど。

イ:これ(21:51ジェスチャア?)なんですね。

矢:あの頃まだ、たばこもガンガン吸っていたから。今はシャワー浴びて、「さあて、今日は……」、いいステージのときは、このシャワーが妙に心地いいんですよ。今日はいいステージやったな、みたいな。50代過ぎますと、1個1個の仕事が渋くなりますから、いいですよ。楽しみにしていてください。

イ:それはでも、そういう姿というのは見せないわけですよね、表に。

矢:もちろん、もちろん。全く見せる必要ないし。だってオーディエンスは、矢沢が56だとか51だとか、関係ないですからね。矢沢が30だろうが56だろうが、いいから、俺たちと一緒に乗っけてよみたいな感じだから。だから、終わった後に思うんじゃないですか。すごいステージだった。ところで、矢沢って今、五十幾つなんじゃないというのを、後で思うんじゃないですか。本人は何かといったらもう、シャワーでへばっちゃっているもん。だけど、心地いいへばり。それはもう人に見せない。終わった後、自分で感じてね。

イ:例えばそういう状態で町を歩かなきゃいけない状況になって、足をちょっとでも引きずっているとするじゃないですか。でも、ファンの人が見ていると思ったら、もうしっかりと歩くんですか。そこは。

矢:町は歩かないけど。歩いたと仮定して。歩いて、じゃ、そのとき痛かったと、膝が。膝が痛いってやっていられないでしょうね。もうちょっときちっとしなきゃいかんし、やっぱり。

イ:ターンしちゃうわけですよね。

矢:しようがないですよ。スターですから(笑)

イ:そこがすごく興味深い、僕は。

 

イ:ちょっと変わってきましたね、最近。以前は常にイチローの仮面をかぶっていた。飯食っているときもそうでしたし、常にやっぱり、人目にさらされる可能性のあるところでは、常に「イチロー」だったんですけど、ある時から、それはもうグラウンドの上、基本的には。野球場でそうしていればいい。それ以外のところは自分らしくいたいなという瞬間が訪れて、それを脱ぎ出したんです、僕、最近。

矢:幾つぐらいのとき。

イ:まだ3年ぐらいですかね、この……。

矢:だから、28

イ:そうですね、289

矢:僕も同じだった。28じゃなくて、僕もそういうときありましたよ。もう頭に来たの。どこ行っても「矢沢、矢沢」って見るなと。多分イチローさんの場合は、そうやって仮面を脱いで、自分、今度は鈴木一朗ということを出しても、どこかはちゃんとキープした上であったと思うんですけど、僕は一回ぼろぼろになってやろうかと思うぐらいのときがありましたね。結構一時期、めちゃくちゃ酒飲みまくって、ああ、どのぐらいかな。毎日といっていいぐらい、朝8時ぐらいまで飲んでいるぐらいのときがありましたね。それでよく冗談で僕、「矢沢?矢沢が何ぼのもんよって」って自分で言うんですよ、飲みながら。「そんなもん、フルチンで六本木走ってやろうか」と。そうしたら矢沢、一瞬で終わるんじゃないって。やっちゃおうかな、俺みたいな。自分を痛めつけたいぐらいのときがありましたね。2832ぐらい。その位の頃。それはどうしてかというと、やっぱりどこかで疲れているんだよね。やっぱり尋常じゃないと思いますよ、人間。人に見られているとか、そういうことを長いことやっていると、普通じゃないよね、これ。ナチュラルじゃないもんね。そうすると、何でということで、自問自答の中で、何でって。これ予定外じゃない。俺はだって、ただ歌で成功したかったのにって。歌で上へ行きたかった。それがプラス・アルファでこういうものがあるというものは計算になかったよ。これは虚像の世界の闘いになるんでしょうけども。それを今度またイチローさん、超えると、面白いことが起きるのよ。45ぐらいになったら、「そうだ、俺は矢沢なんだ」と。そうか。俺を応援してくれるファンのみんなの矢沢なんだ。そう、みんなの矢沢をちゃんと。今度はもう一皮むけた矢沢永吉をやろうと思うんですよ。今、そういうところがあります。みんなの谷沢永吉なんだと。これ50になってからだね。

 だから僕も、30の頭ぐらいのときに、こんな仮面なんか、何ぼのもんよ、矢沢永吉なんか。こんな仮面脱いでやる。俺はステージの上ではびっちりやるけども、ステージ降りたら放っておいてくれよと。だからそれだけ真面目なのかもしれない。よく言えば。自分は結構真面目なのかもしれない。不器用なのかもしれないですね。

イ:僕の場合はイチローというものが先にぽんと突っ走ってしまったので、それを追いかける僕がいたんですね。イチローに早く追いつきたい。それがいつの日か、これが3年くらい前なんですけど、イチローをちょっと抜いちゃったかな、僕みたいな感覚が出てきたんです。そのときに初めてイチロー鈴木一朗というものを僕の中で分離させることができて、イチローイチロー。だから、「E.Yazawa」と「矢沢永吉さん」という、そういう感じで僕の中でもイチロー鈴木一朗みたいなふうに分離した瞬間があったんですよね。そうなったときに、物すごく楽になりましたね。

 僕は人目に触れる場所にもよく行くので、一般の人ともすごく触れ合うんですね。そのときに、「こんな感じの人だったんだ」というふうによく言われるんです。中には、「会わなきゃよかった」と言う人もいますけど(笑)でも、それはそれでいいかなという。それが嫌だったんです、昔。昔というのは、その前までは。イチローのままでいたい。それが好きでいてくれる人に対して、イチローを僕も演じようと。期待は裏切らない。だから、割と物静かでぶっきらぼうで、みたいなイメージがあるらしいですけど、そのままでいたんですよね。もう疲れちゃって。

矢:どういうところに行きます。どこでも。

イ:どこでも行きますね。「ドン・キホーテ」も行きますし。

矢:居酒屋でも行くし。

イ:東急ハンズセブンイレブンも行きますし。そんな感じですね。

矢:それで、普通にして、普通に帰って。すごく楽になったですか。

イ:物すごく楽になりましたね。

矢:いいですね。

イ:ただ、それを超えるときがまた来ると(矢沢さんが)おっしゃって、それはまた楽しみですね。

矢:でも、イチローさんの場合、どうだろう。今話聞いて、今度は鈴木一朗というものを分離させたんだと。そうしたらすごく楽になったんだというところで、僕、イチローさんの場合、すごく完結したと思うけどな。

イ:そうなんですかね。

矢:うん。これでこのまま行けば行くほどいいんじゃないですか。

 イチローさんにちょっと聞きたいんですけど、奥様か友人か何かがアドバイスがあったとか、もしくは自分の中で苦しんだ上で、俺はもう嫌だと。これはもうこうやってやるんだというふうにやったんだと、どっちなんですか。

イ:人からのアドバイスでないことは確かです。自分の中で何か、人に対してもそうですし、自分に対しても、今までミスをすること、失敗を許さなかったんですね。自分にも厳しくしてきた。でも、人にも厳しくしてきた。こういうスタンスだったんです。これが。そんなこともするよなって。他人同士付き合っていたら、嫌なところいっぱいあるけど、でも、いいところもある。そこに目が行くようになったんですね。自分も完璧にやりたいと思っていたけど、それはやるよなって。何か自分自身の中でも。これは甘くという意味ではなくて、何か許してしまうと。その許す気持ちが出てきたときに、ああ、これイチローより俺上行っちゃったのかなって感じたんです。そこなんですよね、分離できたというのは。

矢:なるほど。それが先ほど言ったように、「上行った感」を、ちょっと行っちゃったのかなと思えたんだというのは、そういう意味ね。

イ:そういうことなんです。だから、完璧にそれはもちろんできないですけど、今、自分の中でやりたいなと思っていることは、自分にはもちろん厳しく、でも人には寛容にということができたら。

矢:それ、最高だね。

イ:それはもう最高だし。

矢:僕それ聞いていて恥ずかしいよ、自分が。そうしたいね。

イ:それがもちろんできないんですけど。

矢:いやいや。

イ:でも、これが10回のうち、以前は10回ともできなかったものが、1回や2回とかってできるようになってきている感覚を持ってきたので、何かちょっといいなと思っているんですけどね。

矢:すごくいいね。すごくいい。僕らというか、少なくともこういう人に見られている仕事やっている人は、ほとんどの多くの人が、そういう壁に一回ぶつかるんだろうね。自問自答するんですよ。こんなはずだったのかなみたいな。俺はビートルズになりたかっただけなのに、何故こんなに居心地悪いんだと。こういうところに一回は行くんですよね。それでそこから抜け出せない人と、それをちゃんと消化して、もうこんなの嘘だよって。仕事はもちろん頑張るし、これからももっと自分はいステージやってやるし、いいバッター、もっとヒット打ってやるしって。だから僕の場合は50になって入って、また別の、ああ、そうか。俺はファンみんなに支えられて、そういう人たちのための矢沢永吉でもあるんだというふうに思えたって。でも、イチローさんの話聞いていると、その段階でもう一つできているね。

イ:一応、野球選手として今まで自分が自分に厳しくしてきたし、恥ずかしいことはしてこなかったプライドがある。それを感じて、それを自覚して、今までは人のことを喜ばそう。どうやったら喜んでもらえるんだろうと思いながらプレーしてきたんです。でも、そういうときって、お客さん来てくれないんですよね。喜んでもらえない。じゃ、お前ら見とけ。俺は今までどおりやる。俺が好きなようにやると。ついてこれるならついて来いと。イチローを見る一ファンとして、僕についてこれるならついてきてみろというような、ちょっと気持ちが芽生えてきたんですね。そうすると、子どもみたいな雰囲気が出るみたいなんですよね。野球をしている姿というのは、本来の姿に戻っていく。そうすると、見ている人も喜んでくれる。ちょっと今まで順番を履き違えてきたかな。でも、その回り道をしないと、結局そこにたどり着かないということだと思うんですよね。近道をもちろんしたいし、簡単にできたら楽なんですけど、でも、そんなことは一流になるためにはもちろん不可能なことで、一番の近道は遠回りをすることだというふうな感覚を今持ってやっているんですよね。それが唯一の道なんじゃないかと。

 

矢:やっぱりナマモン(生物)というか、しょっちゅう動いている、変化していく。右の方に変化すれば、それに対応するように、こちらもまた考えなきゃいけないし。だから面白いんじゃないですか。それでやることがあるんですよ。やることがあるし、対応の仕方変えなきゃいかんし。だからやり続けられるし。だから、これが変化もなくなってパターン化してこうなったら、つまらないじゃないですか。もう変える必要もなくなってきたときには、もう熱くもないし、本当にもう終わっちゃうんじゃない。声の張りの出ている日と出ないとき、僕しか分からないのありますもん。「うわ、出ているよ、今日の声」というのがありますからね。それはその差みたいなもの、オーディエンスはちょっと分かっていなくても、僕はもう「わあ、今日サイコー」。昨日睡眠2時間多かったからとかね、ありますよ。だから、それがいいんですよ、ナマモンなんですよね、やっぱり。だから、どこまで歌えるかわからないけど、自分でわかるでしょうね、もういいなというとき。でも、もういいなんてないのかもわからないよ。多分それで終わるんじゃないかな、そのうち。

イ:僕らの世界もやっぱり形がこれでいいというものがないんですね。同じ結果だとしても、そこで出ている、それをするためのプロセスは絶対に違うし、その形も絶対に違う。肉体的にも変わってくる、精神的にも変わってくる。そこで形は同じに見えても、そこで表現されているものというのは全然違うものだったりするんですよね。常に見つけたいし、これでいい。その瞬間は、今はこれでいいと思うんですけど、でも1週間後にはまたそれが変わってくる。それをまた見つけなくてはいけない。この繰り返しなんですよね。これが面白いし、野球を続けられるモチベーションなんですよね。終わりがないこと。しかも、バッティングというのは、10回やって3回成功すれば、うまくいけば一流だと言われる世界。7回は失敗できる。これが9回打たなくてはいけない世界だと、かなり苦しいですよ。1回しか失敗できないわけですから。7回失敗できることが僕らの救いではあるんですよね。この中にいろんな可能性が含まれている。それをこれからも探していきたいと思っているし、その気持ちがあれば、恐らく野球が好きだという気持ちが薄れることはないと思うので、ここまで野球が好きでいられているということは、恐らくこれから先も、その気持ちは薄れないと思うんですよね。どこかで揺らいでいる自分がいたら、もう終わっているはず。でも、ここまで来ているので、その気持ちを大切にしていきたい。いつまでもその気持ち。子どものような気持ちで野球に向かっていけたら。「最高

ですね。

 

矢:「好きでいたい」、それなんだよね。好きなんだよ。好きじゃなきゃダメなんですよ、やっぱり。すごくシンプルだよね。そのとおりなんですよ。

イ:そう。

 

矢:イチローさん、ありがとうございました。

イ:本当に何かエネルギッシュで、もう圧倒されました。とてもとても……。

矢:僕今日、「ああ、いいこと聞いたなあ」というのが、23カ所ありました。

イ:ありがとうございます。

矢:こういう感じですか。

 

―了―