松坂大輔×桑田真澄 対談
ナレーション/決勝、天王山、しびれる試合。日本のマウンドにはいつも、この背中があった。
松坂/勝って当たり前という雰囲気の中、絶対負けられないというプレッシャーの中で、日の丸を背中に背負って戦っているので。
ナレーション/日の丸の重みとともに背負うエースナンバー18、松坂大輔。この18番にも、かつて追っていた背中があった。そこにはやはり同じ18番、桑田真澄。
今、二つの18が交錯する。
桑田/違いが何かある?五輪とWBC。
松阪/野球で真の世界一を争うWBCの方が、おもしろいんではないかと。
桑田/今年も頑張ってください。
松阪/ありがとうございます。よろしくお願いします。
ナレーション/時空を超えた18番の会合。舞台は桑田行きつけのイタリアレストラン。日本を代表する若き18番にとって、この熟練の18番は、遺恨とも言うべき特別の存在だった。
松阪/僕はやっぱり、小さい時から桑田さんを見て育ってきたので。
ナレーション/松坂大輔にとってのピッチャー桑田真澄。それは実は、守備。
松坂/他のフィールディング上手いっていうピッチャーたくさんいるんですけど、でもこれはなかなかできないなというプレーを見せられたこと、僕は桑田さん以外あんまりないですね。
振り向きざまに投げてアウトにしたりとか。
ピッチャーは、やっぱり投げるだけじゃだめだと思いましたし、しっかり守れなきゃいけない、走ることもできないといけない、打つことも。
よく桑田さんが投げてても、自分で抑えてホームラン打ってる姿を見てましたし、やっぱり…
桑田/でもシーズン振り返ってみると、あの守備大きいなというのいっぱいあるでしょ。
松坂/ありますね。いっぱい自分を助けることになるので。
桑田/自分を助けるイコール、チームを救うことだからね。
桑田/WBCのボールって、メジャーで使ってるボールと一緒だよね。
松坂/一緒です、刻印だけ。選手によっては縫い目がどうこう、言ってたんですけど。それはアメリカらしいというか。
桑田/同じボールないもんね。
松坂/ないです。
桑田/いろんなボールあるよね。
松坂/それは結構、涌井とか岸が言ってたんですけど、縫い目の高さがどうこうって、それは、たまたま触ったボールが縫い目が高かっただけだよって話はしたんですけど。
桑田/日本は、質が高すぎる、良すぎるんだよね。
松坂/良すぎるんですよね。
桑田/時々、縫い目高いのがくると、これ絶対シュートかカーブだって、まっすぐは投げないとかね。もうこれきた時点で、投げるボールをカーブだって決めてるからね。
松坂/変化球が投げやすくなりますからね。
桑田/また曲がるんだよね。
松坂/はい。
ナレーション/この18番たちは、どこか似ていた。
2009年、松坂大輔は精力的に動いた。1月、桑田真澄との自主トレ。様々なアドバイスを受ける。その翌週には、イチローとの真剣勝負。
桑田/ピッチャー返しがあったって。
松坂/ありましたよ、ものすごい打球で。でも試合に入ってたら、捕りに行ってますね。
桑田/イチロー君は、結構仕上がってた?
松坂/すごいですね、仕上がりの早さは。ちょっと周りの選手より早いんじゃないですか。早く仕上がってるっていう感じでしたね。
ナレーション/どうしてこれほど急ぐのか。実は今年、松坂大輔にはある重責が科せられるからだ。
松坂/考えているのは、前回とは違う自分の置かれている立場ですかね。年上の選手は、ピッチャーは渡辺俊介さんしか、あとはアメリカでの野球の経験者ということで、投手陣のリーダー。
松坂/やはり前回は上原さんがいた、これは大きかったと思いますね、はい。上原さんの言葉っていうよりは、試合で戦う姿勢だったり、そういうものが一番影響あると思うんですよね、言葉よりも。言葉とそこに実際そこにそういうものを示す、それが一番ですけれど。そういう姿勢を見せることじゃないですかね。
ナレーション/そのリーダーとなるには、何よりこの18番が幼い自分に見せてくれたもの。そう、今度は自分が背中を見せる番なのだ。
桑田/当然WBC行ったら、若手の選手、ピッチャーは特に大輔の背中見てるから、何も言う必要ないと思う。背中を見せるだけで。
松坂/些細なことでも目につくと思うので、些細なところまで見られてる、逆に見てほしいとも思いますし。イチローさんもそうですけど、そういう些細なところをずうっと十何年も続けてやってきてるということが、すごいことだと思いますね。
桑田/一緒に入った時は、ちょっと楽しくやりながら、その中でもパッと光るもの、オッてものを時々見せてあげることも大事なんだよ。あ~何?今のグローブの使い方とか、この回転の速さとか、オッていうものを見せるだけで、これ彼らに指導してるってことなんだよね。パッと見せてやると、彼らの刺激になるよね。
松坂/ちょっとイメージさせてあげるだけでも、違うと思いますね。
ナレーション/そしてもうひとつ、本当に大切なことがある。あの時のように全員の意志を本当に一つにできるのか。
松坂/この短期間で、どれだけみんなが同じ方向に向いていくことができるかっていうのが大事だと思うので、やっぱり。
桑田/野球はやっぱり、みんなでやるスポーツだからね、実力も技術も気持ちもひとつにならないとなかなか勝てないと思うね。
松坂/そうですね、力があっても。
松坂/やっぱりとにかく時間が短いですから、短い時間でやっぱりいかにみんなが同じ方向を向けるかだと思うんですよね。難しいんですよね、意外と。優勝目指すというのは当たり前のことなんですけど、そうじゃないんですよね。そこだけじゃないというか。それだけでは本当に向いてるって言えないっていうんですかね。難しいな、これは。
ナレーション/だが、それさえできれば。いかなる難敵、強敵が立ちはだかろうとも、日本は戦い抜ける。
桑田/アメリカよりもドミニカってすごくない?
松坂/ドミニカは、バッターが素晴らしい選手ばかりで、アメリカも前回は、第2ラウンドで負けているので、今回は気持ちの持ち方っていうのが違ってくるのかなとは思いますけれども。
桑田/アメリカも、メキシコに負けたんだよね。
松坂/そうです。僕らはメキシコに救われたというんですかね。
桑田/メキシコ、結構やるんじゃないかなと思ってるんだけどね。
松坂/油断できないチームですね。
桑田/いい選手、結構いるんだよね。
松坂/国同士の負けられない意地のぶつかり合いというんですかね。2006年に世界一になって、2007年からアメリカに行きましたけど、日本人選手の実力は認められてきてはいるけれども、日本が一番だという認識は、まだされていないですね。それは、アメリカに行って改めて感じたというか、強く感じたことですね。何があっても、アメリカはアメリカが一番だという。それをやっぱり変えてやるには、また勝つことしかないですよね。簡単なことではないですけど。
ナレーション/勝利のために、実は松坂大輔は桑田真澄から、思いとともにある一つの具体的な秘策を伝授されていた。あの虹のようと称された桑田の決め球、カーブ。
桑田/握り?僕はいいけど、大輔、企業秘密してる可能性もあるし。
松坂/僕は大丈夫です、はい。例えば何ですか?
桑田/カーブの握り?
松坂/カーブですか。カーブは、今日はどうしたかな?人差し指を浮かすような感じで。
何となくこの間キャッチボールさせてもらって、桑田さんのボールの軌道をイメージすると、握りはこうで、投げ方はこうでって、そうなんじゃないと思いながら投げてたんですけど。
桑田/ああ、そう。
ナレーション/松坂大輔といえば、高速スライダー。滑るように曲がる、この横のゆさぶり。一方、桑田真澄のこのカーブ。曲がるというよりは落ちる。すなわち縦のゆさぶり。これを操ることができれば、バッターへのゆさぶりは、横+縦。より立体的にかつ3次元的広がりを持つこととなる。松坂大輔は、早くも実践でこのカーブを披露。その軌道には、桑田真澄も脱帽した。
桑田/今日すごいカーブ投げてたな。あれ見たことないカーブだった。
松坂/良かったですね、はい。
桑田/あれ、今まで俺の印象だと、こう来て、こっから落ちていったんだけど、今日のはクックッって、一回浮いて落ちたよね。あれができると…
松坂/あれが使えるようになるといいですね。
桑田/一回浮き上がって落ちるカーブが投げれたら、ストライクはストライクでも、初球、右バッターがショートゴロとか、サードゴロとか打ってくれるから。追い込んだら、ワンバン気味に投げればいいし、そうすると2ナッシングからいきなりワンバン気味のカーブいって、三振取れたら、3球で終わるじゃない。
松坂/そういう意味で、大事なボールになりますね、使えると。使いたいですけど。そういうボールは欲しいですね。近いうちにまた新しい松坂大輔が見られるかもしれないですね。(笑)
桑田/100球で完投したよって。(笑)
松坂/三振もそれなりに取って。
ナレーション/さらに、実は桑田真澄には、このカーブすらおとりにしてアウトを取る、二段構えの投球術があった。そのアウト確実のフィニッシュボールとは。
桑田/必ずアメリカが振るからね、これよ~く引っかかってくれた、不思議なくらい2球で。
(CM)
ナレーション/かつて日本を代表した18番が、今世界と戦う18番に託す。伝家の宝刀、カーブ。
松坂/人差し指を浮かすような感じで。
桑田さんのボールの軌道をイメージすると、握りはこうで、投げ方はこうでと。
桑田/大輔の場合は、まっすぐがカンっとくるから、ホームベースのここあるでしょ?ここに落としたら、絶対振ると思うのね。僕の場合、追い込んだらここを狙うの。コースいくと、見送られる可能性あるから
松坂/そうですね。
桑田/あれぐらい。
松坂/真ん中のボール。
桑田/あれぐらいクッと来たら、ホームベースのここ狙って、ここからキャッチャーの間のところに落としたら、必ずアメリカまた振るからね。
ナレーション/さらにそのカーブの次。真の魔球とは。
桑田/カーブの後に次に投げる球種があって、2球で1アウト取るという、アメリカの選手、これ、よ~く引っかかってくれたの。2球でセカンドゴロかショートゴロ打ってくれるの。
松坂/カーブの後?
桑田/これは、テレビじゃないところで話しような。
松坂/そうですね、その方がいいですね。
桑田/これも面白いように引っかかるんだ。はい、お願いしますっていったら、本当に打ってくれるの。テレビじゃ言えないね。
松坂/もったいないですね。(笑)
桑田/もったいない。(笑)
(スタジオ)
恵/何?何?何?カーブの後、槙さん何?
槙原/大体はインコースのまっすぐとかで、ポーンと上げたら空振りとれる、スピード差がありますからね。かんがえやすいんだけど、
恵/引っかかるって言ってる。
槙原/だから、シュート系の球かなと思うんですけどね。
恵/不思議なくらい打ち取れるんだ。
アナウンサー/収録後に桑田さんが、「15分だけ大輔と二人きりにしてくれ。」と言ってたんです。その時に伝えられたんじゃないかなと。
恵/わ~すごいね~。何なんろうね。
槙原/ま、色んなパターンあるね。