アスリートの対談から人生を学ぶ

一流アスリートの対談

落合博満 × 矢野燿大 対談


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【敬称略・姓のみ】
落合=落合博満 矢野=矢野燿大
 
落合・矢野:よろしくお願いします。
 
矢野:今の阪神タイガースを去年までずっと外で見られていまして、足りないものというのはやっぱり練習。
 
落合:だってシーズン中、『夏時間(疲労を考慮しての練習時間の短縮)』ってあるっていうじゃない。
 
矢野:ありますね(笑)
 
落合:あり得ないでしょう、そんなもの。
 
矢野:バッティング時間が短くなって。
 
落合:練習ビジターで行くと、球場に誰もいない。もう練習終わっている。一番しなきゃいけない。だって、レギュラーはいい。控え選手練習しないで、どうやって抜くの、レギュラーを。一緒になってやっていたら、それは抜けないよ。ベテラン連中がずっとレギュラー張れるために、何でその手助けを若手がしなきゃいけないんだよ。若い奴が練習時間中にロッカーに消えるなんていうのは考えられないもん。「練習終わるまで球追っかけておけ」って言って。しないでしょう。
 
矢野:はい……。オールスターで行っても、落合監督にノック打っていただいても、「お前、練習してねえなあ」って言われたのを、今思い出したけど(笑)
 
ナレーション:現役引退後、コーチを経験することなく監督へ。就任1年目、落合はキャンプ初日から紅白戦を敢行。エース・川上憲伸らが登板し、周囲は度肝を抜かれた。
 
矢野:そういうものというのは、監督、どこで自分で考えられてきたんですかね。
 
落合:昔の選手というのは自主トレ。監督、コーチが出てきて指導してもいい。自主トレそのものがキャンプの始まりみたいなものだったの。それが今のみたいにポストシーズンが確立されて、「絶対ダメですよ、 2 1日までです」と言ったら、前の年の秋にやったキャンプがゼロに戻っちゃう。秋のキャンプをそのままの状態で春のキャンプを迎えようと思ったら、遊ばないような状況を作り出してやればいい。そうしたら 2 1日に紅白ゲームをやりますよと。本当にやるんかなあと思いつつ、やるんだよなあと。そうしたら俺ら、バカなことしてられない。多少は練習していかなきゃいけないというふうに思わせた時点で、俺の作戦通りに周りは動いてくれるわけだ。でも、過去にも2 1日に紅白ゲームをやった球団というのはあるんですよ。
 
矢野:あるんですか。
 
落合:あるなんです、これは。私が何も最初ということじゃなくてね。
 
矢野:そういうのは監督、どこで勉強というか。本で読まれたりですか。
 
落合:まあ、お前より長いこと生きているから(笑)
 
矢野:いえいえ(笑)
 
落合:いろんな人の話聞いて、いや、俺らのときはこうだったよ、ああだったよというのは、戦前の人から戦中、戦後といろんな人の話を聞いてくるわけじゃない?だから、結構年行った方々には、「お前やっているやつって何も不思議じゃねえわ。新しいことやってねえわ。俺らの時代こうだったよな」と言う人、いっぱいいたよ。
 
矢野:ああ、そうですか。
 
ナレーション:豊かな知識、自らの経験に裏打ちされた揺るぎない采配。落合の、選手を動かすための、術。
 
矢野:選手を安心させないところがすごくあるなというふうに思ったんですけども。怪我に対しても、監督の「あ、痛いの。出なくていいよ。ほかの奴いるよ」というコメントをいつも見ていましたので、
 
落合:例えば、キャッチャーやっていて、ファールチップを受けたと。「痛いか」と言って、痛くないわけがないわな。「大丈夫か」と言って、「大丈夫」と言うよね。「いや、ダメです」とは殆ど言わないじゃない?最終的に本人が行けるのか行けないのか、どっちなんだと聞くのが一番優しくない?
 
矢野:そうですね。
 
落合:行くか行かないかはお前決めろ。行かないんだったら、代わり何ぼでもいる。行くんだったら、痛い顔すんなと。痛くないと言って、ファールチップってないじゃない。それ聞くこと自体が俺は、おかしいだろうといって。お前今こういう状況にありますよ。それが今、アクシデントとして起きました。ゲーム行けるのか、行けないのか。どっちなんだ。お前が判断しろといって。
 
矢野:和田(一浩)なんかがずっと怪我なくというか、休まず出れたのは、落合監督だからかなというところも思うんですけど。
 
落合:だって、あの年齢になって、西武から来てあの打ち方したら、絶対腰痛やるもん。腰痛やるのわかっていたから、徐々に直していこうかということで話し合いして、直してきたわけじゃない。腰が痛い、やれあれが痛いということは、俺の前では言わなくなった。
 
矢野:そうですね。休まなかったですね。
 
落合:確かにゲーム終わってから、背中から腰から膝から、氷背負ってるよ。
 
矢野:そうですか(笑)
 
落合:俺それ一回だけ見てる。和田は背負う、谷繁(元信)も背負う、荒木(雅博)も岩(慎司)田も森野(将彦)のも、みんな氷背負っているのがわかる。わかるけども、ゲーム行くのがお前らの仕事だろうと。
 
矢野:そこで声をかけるよりも、使い続けることのほうが大事だと。
 
落合:俺は大事だと思う。自分らもこうやってレギュラーとってきたんだ。で、これを何で若い連中に、俺はそのチャンス与えなきゃいけないんだ。俺が出続けることによって、俺は自分の生活を守れるんだと。
 
矢野:落合監督阪神の監督だったら、どういうふうにチームを強くというか、変えようと考えられますか。
 
落合:やっぱりちゃんとした見方。誰を好きだとか、誰を嫌いということじゃなくて、今戦うために、戦力的に同じポジションなんだったらどっちが上なんだと。上の連中を使えばいいわけだ。それが誰が見てもそうだよなという、選手同士で納得させなきゃいけない。
そうだよな。これメンバー構成したらね。この選手だよな。これって監督使うのは当然だよな。正当なる評価というのかな。それをしてやらなきゃいけないんだろうと思う。
 
ナレーション:元ライバル球団への鋭い観察。順調なスタートを切ったかに見える阪神。落合が指向する「正当な評価」とは?
 
矢野:落合監督だったら、阪神 4番、誰にしますか。
 
落合:4番?今?
 
矢野:はい、現状。
 
落合:「いない」って言っちゃいけないんだよな(笑)
 
矢野:今ふっと落合監督ならどうされるかなというのが浮かんでしまって。すみません。どうされるのかなという。
 
落合:4番タイプはいない。でも、敢えて打たせなきゃいけないといったら、俺、金本(知憲)を出す。
 
矢野:ああ、そうですか。
 
落合:金本の状態がゲームに使っても……、まあ、去年、一昨年はボール放れなかったよね。あれでゲームに使うというのは、俺は使わないけども、今もし普通に投げられて、守れてというんであったら、いっそのこと金本 4番にしちゃったらって。鳥谷(敬) 1番でいいんじゃないのって。もしかしたら(マット・)マートン 1番が一番いいかもわからない。マートンのクリーンナップって 6番というのは、俺あまり賛成できない。大体、自分で開拓していくようなタイプじゃない?マートンはね。それを、いるランナーを返せというのは、そういうタイプにはマートンは見えないんだよ。
お前、キャッチャーで経験あると思うけど、やっぱり年間 20本しかホームランを打たなくても、 1番で 20本打って 3割打たれる方が嫌だよな?プレイボールで。
 
矢野:プレイボールで、はい。
 
落合:「うわ、こいつ攻め方間違ったら、ヒットではいいけども、こいつホームランあるよな」というと、フォアボールも増えるんだ。選択肢がどんどん広がっていくだろうし、相手のバッテリーからしたら、平野(恵一)ホームランないよな。ヒットは打てるけど。ヒットで出られるフォアボールも一緒だったら、打ち損じもあるよねというふうに考えたときに、どっちのバッテリーが 1回の表裏嫌かなといったら、俺マートンの方が嫌だと思う。その嫌なことをやられるというのは、相手のベンチからしたら……、嫌なんだよね。
 
矢野:そうですね。
 
落合:で、 2番?いいじゃん、平野で。その代わりセーフティーバント 3塁側の。それを覚えろと言う。そこに鳥谷? 3番なら 3番でもいいよね。ホームランを望まないというんであれば、鳥谷 4番打たせたって別に構わないと思う。
 
矢野:新井(貴浩)、今 4番打っていまして、現状バッティングをどういう方向に……。
 
ナレーション:「虎の 4番」を落合が熱く語る。
 
矢野:新井、打っていまして、数字的には打点も、木村の方が多いですし、新井が今現状バッティングをどういう方向にしていけば、長く安定した成績が残せるようになると思われますか。
 
落合:自分の打てないインサイドにつっかかっていくもん。お前とは違うからな。
 
矢野:(笑)
 
落合:俺が現役の監督をやっている頃に、矢野に困ったとき、絶対インサイド行くなよって言った。あいつはインサイド待っていなくても、インサイドはさばけるから。勝負どころのインサイドだけは使うなよって言っているんだけども、やっぱり行くんだよな。
 
矢野:陳のときだけはやたら来てくれて……。
 
落合:な?行ってやられるんだよ。
 
矢野:はい(笑)
 
落合:それで、お前にサイドスローの球ぶつけていないだろう?
 
矢野:そうですね。サイドスロー、好きでした。
 
落合:そうなんだわ。だから、その特徴があるの、バッターというのは。だから新井は自分の好きなところと打っているボールが違うんだ。あいつは恐らくインサイドは好きだと思う。ところがインサイドでの数字というのは上がってきていないの。
 
矢野:逆にそこを伏せていくことで上がっていくということですか。
 
落合:そう。と思う。だからここを気にするあまり、外のワンバウンド振るってやつ、一番悪いパターンにはまっちゃうから。
 
矢野:打ち方的なものは。
 
落合:引っ張るなと。引っ張ったらダメだ、あいつ。
 
矢野:センター方向ですか。
 
落合:うん。
 
矢野:引っ張るとき、ちょっとドライブかかったような。
 
落合:うん。だって天井動くんだもん、こうやって。バットの軌道がこうやって上向いていくんだもん。
 
矢野:今度下に向いていく。
 
落合:下に黙って向いてくれれば、勝手にボールが上がってくれるんだけども、こうやって上に向いていくから、こうやって一番ボール飛ぶやつが、やっぱりドライブかかっちゃう。だから上に向くんだったら、右中間いけばいいんだよ、軌道が合うから。そうしたらインサイドは捨てなきゃいけない。その代わり、緩い高い変化球は合うんだわ、あれ。
 
矢野:合いますね(笑)
 
落合:だから、自分の特徴を理解しなきゃダメ。
 
ナレーション:そして、落合が矢野に一言。
 
矢野:監督、いろいろと本当に長い時間、どうもありがとうございました。
 
落合:いいえ(笑)
 
矢野:たくさん話していただきまして、大変助かりました。ありがとうございます。
 
落合:早く監督になれ(笑)
 
矢野:ありがとうございます(笑)
 
落合:見てみたい、俺は(笑)
\了―